毛皮と仮面、そして鈴の音。
日本の節分にも似た、スロベニア最大の冬祭りです。
スロベニアには、
冬の終わりに、音を鳴らして季節を切り替える祭りがあります。
毛皮をまとい、
仮面をかぶり、
大きな鈴を腰に下げた存在が、街を練り歩く。
その祭りの名前は、
クレンタヴァニエ(Kurentovanje)。
スロベニア東部・プトゥイを中心に行われる、冬の代表的なお祭りです。
クレンタヴァニエの中心にいるのが、
クレント(Kurent)と呼ばれる存在です。
毛皮に身を包み、仮面をつけ、腰には重たい鈴。
見た目は少し怖いけれど、クレントは人を脅かす存在ではありません。
冬や悪いものを外へ追い出し、春を呼び込む役割を担っています。
クレンタヴァニエで欠かせないのが、クレントたちが鳴らす鈴の音です。
静かに祈るのではなく、
体を動かし、音を鳴らし、街全体で季節を切り替える。
音には、冬を驚かせ、悪いものを追い払い、春を呼ぶ力があると考えられてきました。
音=季節を動かす力。
それが、この祭りの考え方です。
クレントの姿は、子どもには少し怖く見えるかもしれません。
けれど、一緒に写真を撮り、声をかけ、同じ時間を過ごします。
日本で言えば、なまはげのような存在。
怖さと親しみやすさが同時にある、共同体の一部です。
クレンタヴァニエが行われるのは、2月ごろ。
まだ寒さが残るものの、春の気配が感じられ始める時期です。
このタイミングで、外へ出て、人と集まり、飲み、食べ、騒ぐ。
それ自体が、春を迎えに行く行為でもあります。
クレンタヴァニエには、「この料理」「このワイン」という決まりはありません。
屋台の温かい料理。
手に取りやすい食べ物。
そして、地元のワイン。
大切なのは、味を評価することではなく、その場を一緒に楽しむこと。
考えずに飲める酒が、この祭りにはよく似合います。
節分の夜は、冬を外へ送り出し、新しい季節を迎えるためのひととき。
クレンタヴァニエも、同じように「冬を追い払う」ための祭りです。
ただ、家の中ではなく、外へ出て、人と集まり、飲み、笑いながら。
この夜に似合うのは、難しく考えずに楽しめるワイン。
軽やかで果実味のある赤ワイン。
フレッシュなオレンジワイン。
みんなで注ぎ分けやすい、微発泡やスパークリング。
今年の節分は、少しだけクレンタヴァニエの空気を重ねて、グラスを傾けてみてください。



