オレンジ色の秘密 ? ? ?
? ぶどう品種と果皮成分
白ぶどうでも果皮の厚みや色素量はさまざまです。
果皮・種に含まれるフェノール群(ポリフェノール、タンニン、カロテノイド、フラボノイドなど)が抽出されることで、ワインの色・香り・渋み・骨格が形成されます。例えば、スロヴェニアの代表品種リボッラ・ジャッラ(Rebula)は、フラボノール豊富で明るい黄金色に、マルバジア(Malvazija)は、カロテノイドが多く琥珀のような深みを帯び、クラルニツァ(Klarnica)は、フェノール酸が由来して仄かに赤みを感じさせる色調に、ピノグリ(Pinot Gris)は、果皮のアントシアニンをわずかに含むため、淡いブロンズやロゼがかったトーンを見せることがあります。
果皮成分が豊富なほど、深い色調と旨味が現れます。
白ぶどうに含まれるフェノール群
Phenolic compounds in white grapes
フラボノイド系 (Flavonoids)
成分:カテキン、エピカテキン、
プロアントシアニジン
部位:果皮・種子
特徴:渋み・苦味のもと。酸化で色が深まり(琥珀〜銅色)、抗酸化作用が高い。
ノンフラボノイド系 (Non-flavonoids)
成分:カフェー酸、フェルラ酸、クマル酸、
シナピン酸
部位:果皮・果肉
特徴:香り・色の安定化に寄与。光沢のある黄金色形成を助ける。
スチルベン類 (Stilbenes)
成分:レスベラトロール
部位:果皮
特徴:抗酸化・抗菌作用。自然派ワインの文脈で言及される代表成分。
フラボノール類 (Flavonols)
成分:ケルセチン、ミリセチン、
ケンフェロール
部位:果皮
特徴:紫外線防御に関与。酸化で鮮やかな黄金色のニュアンスを生む。
これらの成分が抽出されることで、オレンジワインは黄金色から琥珀、そしてブロンズへと深みを増していきます。発酵温度や醸し期間によってフェノールの抽出量が変わり、味わいと色の個性が生まれます。
? 醸しの期間と温度
果皮と果汁を接触させる「醸し」の期間が長いほど、フェノール群が多く抽出され、色は濃く変化します。ワイン科学誌『American Journal of Enology and Viticulture 2022』では、果皮接触10日間で総ポリフェノール量が3日間より約2.8倍増加すると報告されています。
さらに発酵温度が高いほど色素の抽出効率も上がり、黄金→琥珀→銅と、温度とともに色調が深まっていきます。
? 酸化と熟成容器
木樽やアンフォラのように通気性のある容器では、酸化が進むことで色が赤みを帯び、紅茶や蜂蜜のような銅色に変化します。一方で、ステンレスタンクや密閉熟成では酸化が抑えられ、透明感のある黄金色に仕上がります。この“色の差”は単なる見た目の違いではなく、造り手がどんな味わいを描きたいか、その哲学の違いでもあります。
透明瓶が語る、色への誇り
オレンジワインの多くが、あえて“透明瓶”を採用していることにお気づきでしょうか。通常、ワインは紫外線を防ぐために深緑や茶色の遮光瓶を使いますが、オレンジワインの造り手たちは
「色もワインの一部」と考え、光にかざしたときの黄金や琥珀の美しさを見せたいと願っています。スロヴェニアの造り手たちにとっても、
この“見せるボトル”は文化の象徴。透明瓶はワインの生命力と、造り手の誇りを視覚的に表すキャンバスなのです。
科学で見るオレンジワインの色度
OIV(国際ブドウ・ワイン機構)のデータによると、
オレンジワインの色度(Hue)は420〜470nmにピークを持ちます。これは白ワイン(380〜420nm)とロゼワイン(480〜520nm)の中間に位置し、“第4のカテゴリー”としての存在を科学的にも裏付けています。言い換えれば、
オレンジワインは光の波長でも「白と赤の間に生きるワイン」なのです。
色で探るオレンジワインの世界
オレンジワインの色は、見た目だけでなく味わいのヒントでもあります。
・黄金色(Golden)
: フレッシュでフローラル。柑橘や白い花の香りが立ち、爽やかな酸が特徴。冷涼地の短期醸しタイプに多く、魚介やサラダ、レモンを使った料理と好相性。
・琥珀色(Amber)
: 果実味とスパイスが調和し、ボディに丸み。ハーブやナッツの余韻を感じる中間スタイル。スロヴェニアのヴィパーヴァ渓谷やブルダ地方で多く見られ、和食から中東料理まで万能。
・銅色(Bronze / Copper tone)
: 熟成感と紅茶・ハーブ・ドライフルーツのニュアンスが現れ、ナッティで深みのある味わい。長期熟成やアンフォラ使用タイプに多く、熟成チーズやラムなどの肉料理やハーブ料理にぴったり。

こうして見てみると、ひと口に“オレンジ色”といっても、
そこには科学・土地・哲学が混ざりあっています。ワインの「色」は、造り手の手仕事が生んだストーリーそのものなのです。色を見ることは、味を読むこと。グラスの中に広がる「オレンジの宇宙」を、ぜひご自分の感性で旅してみてください。