世界の変化は、私たちの暮らしや価値観、そしてワインのあり方にも、影響を与え続けています。今日は、日々インポーターとして感じていることをベースに、これまでを振り返りながら、今年のワイン市場について触れたいと思います。
こんにちは。365wine代表の大野みさきです。
ワインの仕事をしていると、世界の変化を、ニュースや数字だけでなく、現地の空気や日常の感覚として受け取る場面が多くあります。2025年もまた、そうした変化を強く感じた一年でした。
11月にはマレーシアを訪れる機会がありました。東南アジアといえば「物価が安い」というイメージを持つ方も多いかもしれません。私自身も、そう思っていました。ところが、現地のスーパーに入ってみると、日本と同じくらい、ものによっては日本より高いと感じる商品も珍しくありませんでした。食料品、日用品、そしてワイン。
特にワインは関税の高さもあり、日本でもおなじみのカンガルーワインが、77.90リンギット(約3,000円)で販売されていました。「安い国」という感覚は、もはや現実とはズレている。そんな違和感を、強く突きつけられた出来事でした。
そのとき、ふと感じたことがあります。日本はこの30年間、給料も物価も大きくは変わらないまま、時間だけが過ぎていったのではないか、ということです。
世界の多くの国がインフレと向き合いながら、経済のかたちや価値観を更新してきた一方で、日本は「変わらなかった」ことに慣れてしまっていたのかもしれません。
これは、良い・悪いの話ではありません。ただ、世界との“差”が確実に広がっていた。その事実に、正直ショックを受けました。
昨年は円安や物価高が「一時的な問題」ではなく、日常の「当たり前」として定着した年だったように思います。これは、ワイン業界も例外ではありません。原材料、ガラス瓶や資材、輸送コスト、人件費。世界中であらゆるものが値上がり続けています。
ただし、これは「ワインだけが高くなった」という話ではありません。私たちが暮らす社会全体が、そういったフェーズに入った、ということなのだと思います。
昨今、世界的に顕著だったのは、「飲酒量は減っても、選び方は慎重になる」という変化でした。
毎日たくさん飲むより、たまに美味しい1本を。安さよりも、「なぜこれを選ぶのか」。これはワインに限らず、多くの消費行動に共通する流れだったように感じます。
もうひとつ、大きな変化があります。産地やブランド名だけでなく、誰が、どんな環境で、どんな考えで造っているのか。そうした背景を含めてワインを選ぶ人が、確実に増えました。
気候変動の影響もあり、「いつもの味」が当たり前ではなくなった今、ワインはますます“物語”を持つ飲み物になっています。
ここからは、少し先の話を。今年のワインを考える時、まず感じるのは、「ワインは時代のスピードと同じ速さで走らなくなった」ということです。
効率、拡大、量産。そうした価値観が強かった時代から、ゆっくり造る。無理をしない。続けられるかたちを選ぶ。世界の造り手たちは、そんな方向へ舵を切っています。それは後退ではなく、持続するための選択なのだと思います。
円安や物価高が続くなかで、2026年はさらに、価格について語られる年になるでしょう。ただし、軸は変わりつつあります。安いから選ぶ。高いから特別。そうではなく、「自分は、なぜこの1本を選ぶのか」。ワインは説明を求められるようになりましたが、同時に選ぶ側も成熟してきたように感じます。
2026年、ワインの世界でますます重要になるのは、どこの国か。どの産地か。格付けやブランド以上に、誰が、どんな想いで造っているのか、という部分です。小さな国、聞いたことのない地域、マイナーな造り手。それでも、自分たちの土地を信じ、誠実に造り続ける人たちのワインが、確実に支持を集めています。ワインは、生産者の人となりや、生き方が自然と滲み出る飲み物なのだと感じます。
世界的に見れば、飲酒量はこれからも減っていくでしょう。それでも、ワインがなくなることはないと思っています。なぜならワインは単なるアルコールではなく、食事の時間、誰かと過ごす記憶、その土地の文化。そうしたものと、深く結びついているからです。ワインはより一層、「体験」や「時間」を共有するものになっていくはずです。
私事ですが、今は妊娠後期に入り、日々の晩酌はもちろんのこと、ハレの席での乾杯や集まりに参加できない時間を過ごしています。ワインを仕事にしていながら、一滴も飲めないというのは、少し不思議な感覚でもあります。それでも、いつかまた飲める日を想像し、「出産おめでとうのワイン」を考える時間は、とても楽しいものです。
私はワインを仕事にしていますが、ワインそのものを売りたいと思ったことは、実はあまりありません。どんな日に開けるのか。誰と飲むのか。どんな気持ちで、その1本を選んだのか。そういう時間ごと、ひっくるめてワインなのだと思っています。
トレンドを追わなくてもいい。正解を探さなくてもいい。ただ、自分が「心地いい」と感じる味、「楽しい」と思える時間を、大切にしてほしい。世界がどれだけ変わっても、その感覚だけは、誰にも奪えないものだと思うからです。
今年もワインをきっかけに、視野が広がったり、日常が少し豊かになったりするような話を、スロべニアワインを通してお届けできたら嬉しく思います。



