オレンジワインの起源は、約8000年前のジョージアに遡ります。粘土の壺「クヴェヴリ」で果皮ごと発酵させる古代の醸造法が、その原点です。20世紀末、この手法はイタリア北東部フリウリと、国境を接するスロヴェニア西部ゴリシュカ・ブルダで再び息を吹き返しました。伝統を科学的に見つめ直し、自然と人との調和を追求するその姿勢は、やがて“オレンジワイン革命”と呼ばれる潮流を生み出します。
世界3大オレンジワイン産地
ジョージア・フリウリ・スロヴェニア
ここではオレンジワイン銘醸地をご紹介しましょう。昨今は世界各地で造られていますが、その源流と発展の軸となったのが、この3地域です。いずれも“伝統への敬意と再発見”という共通点をもちながら、気候や文化の違いから独自の個性を育んできました。
ジョージア / Georgia
約8000年のワイン造りの歴史を持ち、クヴェヴリ(Qvevri)=アンフォラ、と呼ばれる粘土壺を地中に埋め発酵させる古代製法を継承。オレンジワインの「原点」であり、世界の自然派ワイン文化の精神的なルーツとなっている。土着品種を用い、長期醸し由来のしっかりとしたタンニンと骨格、ドライフルーツやスパイス、紅茶のような風味。野性的で力強く、素朴な旨味が持ち味。最も伝統的で“根源的”。風土や宗教的背景を含む文化性が強く、ワインが「生活そのもの」に根付いている。
フリウリ / Friuli−Venezia Giulia, Italy
1990年代後半に古代製法の再発見と現代的再構築が起こり、世界的な潮流を生んだ中心地。ラディコン/グラヴナーらの挑戦が“オレンジワイン”という概念を可視化した。リボッラ・ジャッラやピノ・グリージョの深い抽出と長期熟成。銅色〜飴色、ハーブや薬草、紅茶、熟した果実のニュアンス。複雑で余韻が長く、熟成で円みが出る。思想性が強く、熟成ポテンシャルが高い。味わいに“芸術的構築美”があり、飲む人に哲学を感じさせる。
スロヴェニア / Slovenia
フリウリと地続きのプリモルスカ地方(ゴリシュカ・ブルダ、ヴィパーヴァなど)で醸しの伝統が続いてきた。現在は自然派・モダン、両方の造り手が全土で造っている。品種はレブラ(Rebula)、マルバジア、ピノグリを中心に、酸の骨格と塩味が輪郭を整え、蜂蜜やハーブ、柑橘ピールの香り。抽出は産地・生産者ごとに幅があるが、総じてバランスが整っていて、飲み心地の良さが際立つ。スロヴェニアのワイン造りは、“自然との共生精神”に基づいている。ぶどう畑はしばしば森や草花と共存し、畑を「生態系の一部」として尊重する姿勢ある。その結果として生まれるオレンジワインは、静けさと調和を感じさせる味わい。3者の中で最もクリーン&食中向きでありながら、飲む人に“静寂”という余韻を残す。
ジョージア・フリウリ・
スロヴェニアの比較
骨格
ジョージア(渋み・素朴) > フリウリ(抽出・熟成)
> スロヴェニア(酸・ミネラル)
味わいの方向性
ジョージア → 土っぽい旨味+スパイス感
フリウリ → 濃密・複雑・余韻長い
スロヴェニア → クリーン、塩味、食中◎
ペアリングの幅
スロヴェニアが最も広く、次いでフリウリ
ジョージアは発酵・肉・スパイス系に強い
その他のオレンジワイン産地
フランス / France
ロワールやジュラ、アルザスなどで醸しが注目。ピノグリやソーヴィニョンで造られるものが多く、軽やか〜個性派まで。ミネラル感と軽やかさ、オレンジピールの香りが特徴。テロワール重視の洗練された味わいで、ナチュラルワイン文化の厚みを感じる。
ドイツ / Germany
冷涼地のオレンジワインの新しい代表格。リースリングやグラウブルグンダー(ピノグリ)を使い、軽やかでフレッシュな酸をもつスタイルが主流。白茶や青りんごの皮、花のような香りをもち、繊細でモダンな印象。サラダや鶏肉、ハーブ料理などにもよく合う。
オーストリア / Austria
高品質ナチュラルワインの国として知られ、グリューナー・フェルトリーナーやピノグリを用いた醸しワインが増加中。フルーティで香り高く、酸が明瞭でクリーンな造り。構築的で端正なスタイルが多く、伝統とモダンの中間に位置する。
オーストラリア&アメリカ / Australia & USA
新世界の自由な発想を象徴する存在。シャルドネやピノグリなどを用い、果実味を活かしたカジュアルで親しみやすいオレンジワインが多い。カリフォルニアでは酸と旨味のバランスを意識した“クラフト・スタイル”も拡大中。自然派ムーブメントとクラフト文化の融合。
日本 / Japan
甲州、デラウェアなどグリ系・日本固有品種を活かした繊細な造りが多い。山梨・長野・新潟では、果皮由来の旨味と控えめな渋み、出汁のような余韻をもつ、柔らかなオレンジワインが増えている。穏やかな酸と控えめな果実味は和食と抜群の相性。国際的にも評価が高まりつつある。
| 産地 | 歴史的背景 | 主なぶどう品種 | 味わいの特徴 | 渋味 | 酸味 | スタイル | おすすめ料理 |
| ジョージア | ワイン発祥・クヴェヴリ文化 | ルカツィテリなど | ドライフルーツ、紅茶、スパイス、土の旨味 | 強 | 中 | 力強く素朴 | 肉料理、発酵料理 |
| フリウリ(伊) | 古代製法の再構築・現代オレンジの震源地 | リボッラ・ジャッラ、ピノグリ | 蜂蜜、薬草、紅茶、複雑で余韻が長い | 中〜強 | 中 | 重厚・哲学的 | 熟成チーズ、クリーム系 |
| スロヴェニア | 果皮醸しの伝統とモダンの融合 | レブラ、マルバジア | 柑橘ピール、ハーブ、蜂蜜、ミネラル感 | 中 | 高 | クリーンで食中向き | 魚介、野菜、和食 |
| ドイツ | 冷涼産地の新潮流 | リースリング、ピノグリ | 白茶、リンゴ、花、繊細でフレッシュ | 弱〜中 | 高 | フレッシュ・モダン | サラダ、鶏肉、ハーブ料理 |
| 日本 | 和食文化との融合・固有品種 | 甲州、デラウェア | 柑橘、出汁、紅茶、やわらかな旨味 | 弱 | 中 | 優しく繊細 | 和食全般、野菜料理 |
| オーストリア | 精緻な醸造文化と自然派の調和 | グリューナー・フェルトリーナー他 | フルーティで香り高く、酸が明瞭 | 中 | 高 | 端正で構築的 | 白身魚、前菜 |
| フランス | テロワール重視の多様性 | ピノ・グリ、ソーヴィニョン・ブランなど | ミネラル、オレンジピール、軽やか | 中 | 中 | 洗練・エレガント | フロマージュ、鴨、野菜 |
| 豪州・米国 | 自由な発想とクラフト文化 | シャルドネ、ピノ・グリなど | 果実味、旨味、柔らかな酸 | 弱〜中 | 中 | 親和性がある・カジュアル | BBQ、グリル料理 |
スロヴェニアが
“オレンジワインの聖地”
と呼ばれる理由
醸しは文化
この一言に、この国のオレンジワインが“聖地”と呼ばれる理由の全てが凝縮されています。単に地理や気候の話ではなく、流行でもありません。
「醸し」が文化として根づいている。その背景を3つの側面から見ていきましょう。
�� 歴史と地理の連続性
〜国境を越えて続く文化圏
スロヴェニア西部のプリモルスカ地方は、イタリアのフリウリ地方と国境を接し、長い歴史の中でひとつのワイン文化圏として発展してきました。冷戦期の国境封鎖を経ても、人々の往来と技術交流は絶えることなく続き、
オレンジワイン再興の原点となりました。
つまり、オレンジワインが「再誕生した場所」であると同時に、「受け継がれてきた場所」でもあるのです (Simon J. Woolf “Amber Revolution” 2018)
フリウリ&スロヴェニア
ワイン産地マップ

両国は地続きでひとつのワイン文化圏
�� 自然な醸造哲学の全国的な広がり
スロヴェニアでは、イタリア国境のプリモルスカ地方だけでなく、ポドラウィエやポサウィエといった内陸部でも
“醸し”が当たり前の手法として受け継がれています。どの地域でも共通しているのは、培養酵母を使わず、果皮とともに自然発酵させるという伝統的な造り。これは一過性の流行ではなく、世代を超えて息づく文化であり、他の産地との決定的な違いです。
�� 世界が認める品質
スロヴェニアのオレンジワインは、国際的にも高い評価を得ています。英国のワインジャーナリスト、ジェイミー・グッド (Jamie Goode)は、スロヴェニアの造り手ヴィナ・チョタル / Vina Čotar のマルバジア2009を評して、「果皮とともに発酵する白ワインのスタイルが、ここでは本当に機能している/ This is skin-contact white winemaking that really works」と述べました (WineAnorak.com 2015)
この発言は、スロヴェニアのオレンジワインが“国内だけの潮流”ではなく、世界に認められた品質であることを物語っています。 こうした
歴史・哲学・品質の三位一体によって、スロヴェニアは世界のワインシーンにおける“オレンジワインの聖地”として確固たる地位を築いています。
醸しは文化。この国のワインを象徴する最も美しい言葉です。
スロヴェニアのワイン産地
スロヴェニアは大きく3つのワイン産地(ワインリージョン)に分かれます。プリモルスカ Primorska、ポドラウィエ Podravje、ポサウィエ Posavje。こちらでは3つのリージョンと、9つのサブゾーンを見ていきましょう。
プリモルスカ地方/Primorska
西部、フリウリ(伊)と国境を接するスロヴェニア随一の銘醸地。4つのサブゾーン(ゴリシュカ・ブルダ、ヴィパーヴァ、クラス(カルスト)、イストラ)があり、オレンジワインの中心的エリア。地中海性気候。レブラやマルバジアを中心に、塩味と透明感、果実とミネラルのバランスが見事。
ポドラウィエ地方/Podravje
北東部、オーストリアとの国境に広がる冷涼地。代表産地はシュタイエルスカ Štajerskaとプレックムリエ Prekmurje。白ワインの名産地として知られ、短期醸しによる繊細なオレンジも増加。高酸と花のような香り、リースリングやピノグリが主力。
ポサウィエ地方/Posavje
中央南部の丘陵地帯。小規模生産者が多く、ビゼリスコ、ドレンスカ、ベラクライナの3サブゾーンを含む。日常的に飲まれるフードフレンドリーなオレンジが生まれる地域で、軽やかで優しい味わいが特徴。
ゴリシュカ・ブルダ/Goriška Brda
伊・コッリオと地続きの丘陵地帯。石灰質+ポンカ(泥灰質)由来のミネラル。レブラ、マルバジア、ピノグリで、柑橘ピールと蜂蜜、塩味のあるフィニッシュ。短〜中期の醸しでも輪郭がクリーン。上質なバランスを誇る。
ヴィパーヴァ/Vipava
アドリア海からの暖気と山から吹くボーラ(寒風)が出会う渓谷。酸が引き締まり、ハーブやスパイスが香る透明感あるアンバーを生む。クラルニツァなど土着品種の復興も進み、スロヴェニアの“新しい古典”として注目されている。
クラス/Kras・カルスト台地
石灰岩と赤土(テーラ・ロッサ)が織りなす独特のテロワール。鉄分を含むミネラルとタンニンで、力強く銅色を帯びたオレンジワインを生む。長期醸しやアンフォラ熟成とも好相性で、プリモルスカの中でも最も野性的な個性をもつ。
スロヴェニア・イストラ/Slovenska Istra
アドリア海沿岸の温暖な地。マルバジア・イストリアーナの名産地で、トロピカルフルーツやハチミツのような香り、柔らかな酸をもつ。魚介やオリーブオイルと合う、地中海らしい伸びやかな味わいが魅力。
シュタイエルスカ/Štajerska
スロヴェニア北東部の冷涼地帯。起伏が激しく標高差が大きいため昼夜の寒暖差も顕著。短期醸しの黄金色のスタイルが得意で、リースリング、ミュスカ系やピノグリから花、白茶、りんごの繊細なアロマが広がる。酸が美しく、優美なバランスを保つ。
プレックムリエ/Prekmurje
ハンガリー国境に接する最北東部。火山性と沖積土壌が混在し、果実味に明るい華やかさが出る。ラシュキリースリング、ピノグリから香り高く柔らかなスタイルが生まれ、近年は新進生産者による醸しワインも増加中。
ビゼリスコ・シュレミッチ/Bizeljsko–Sremič
ソフトな丘陵地と粘土質土壌。親しみやすい酸と丸みをもつオレンジが多く、ハーブやナッツのニュアンスが穏やかに広がる。
ドレンスカ/Dolenjska
スロヴェニアで最も伝統的なワイン産地のひとつ。家庭的なワイン文化が根付く地域で、白からアンバーまで手仕事の味わいが残る。発酵の香りや旨味が強く、素朴ながら奥深い。
ベラ・クライナ/Bela krajina
クロアチア国境に近い南東部。石灰質土壌で香りが引き締まり、果実味が明るい。白ぶどう主体のエリアで軽やかなオレンジワインも増加。スパイスやハーブ料理とよく合う。
わずか200kmほどの小国ながら、アルプス・アドリア海・パンノニア平原の影響を受け、多様な地形とミクロな気候が存在しています。これこそがスロヴェニアのオレンジワインを、世界でも類を見ない表現豊かなものにしているのです。
世界でたった1%?!
〜オレンジワインが希少な理由〜
OIV(国際ブドウ・ワイン機構)の統計によると、
オレンジワインの世界的な生産量は、ワイン全体の1%未満と推計されています。 
オレンジワインを明確にカテゴリー化している国はごく少数です。例えばイタリアでは、
フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州のコッリオDOCに、2025年ヴィンテージから、「オレンジワイン」が原産地呼称入りしました。元々、スロヴェニアとの国境に広がる丘陵地帯、ここは赤・白ワインの“原産地呼称”だったのですが、今回はここにオレンジが仲間入りです。ラディコン & グラヴナー率いる同地域が“醸しワイン”の復活と、世界での人気の高まりにおいて中心的な役割を果たしたことで、この度オレンジワインがコッリオDOCへ、醸しの明確な定義が生産者ガイドラインへ加えられました。
揮発酸: 〜20mg/L(=赤ワインと同等)
醸しの期間: 7日間〜
パントンスケール(色見本帳)の使用:
色によるワインの正確なコード化の導入
パントン色調をラベルに表示する
→公平な評価が可能に
ラベル表記: “オレンジワイン”という文言ではなく、マセレーションぶどうから造られたワイン、“Vino da Uve Macerate”もしくは、マセレーションによって得られるワイン、“Vino Ottenuto con Macerazione”とする

ガイドラインの成立をきっかけに、今よりもワイン法が整備され、更なる広がりも期待できるのですが、それはまだ先のお話です。オレンジワインの生産比率は、下記のような理由から、まだまだ低いのが現状です。
- 醸しの管理や温度コントロールに熟練がいる
- 発酵・熟成期間が長く、大量生産に不向き
- 酸化リスクが高く、少量仕込みが中心
- 市場理解が追いつくまでに時間を要する
そんな中でもスロヴェニアは、面積(=四国ぐらい)と人口210万人の規模からすると、「オレンジワイン」では驚異的な存在感を示しています。
スロヴェニアの年間総生産量:
約80〜90万ヘクトリットル
(=750ml換算で 約1億660万〜1億2,000万本)
ワイン比率:
約70%が白ワイン
実態としてのオレンジワイン比率:
その白の多くが発酵を伴う醸しを行っているため、実際には
「かなりの割合がオレンジワイン」と言えます。公式統計は「白」とされていますが、専門家の間では
「スロヴェニアは世界でもっともオレンジワインが日常的に造られている国」と位置づけられています。 さらに輸出の観点から見ると、スロヴェニアのワイン輸出全体の中で、オレンジワインは 最も国際的に評価が高い分野です。特にイタリア、オーストリア、日本、北欧諸国、アメリカなどへの輸出では
「スロヴェニア=オレンジワインの国」というイメージが定着しています。
つまり、世界市場におけるスロヴェニアの存在感は、生産量ではなく
「オレンジワインというカテゴリーそのものを牽引する国」として表現するのが正しいのです。
1%未満の希少性。それでもオレンジワインが注目されるのは、美味しいだけじゃない、この製法が
ワインの“原点”に立ち返る哲学的な魅力を宿しているからです。
本物のワインは “自然派” を超えて
今や「自然派ワイン(ナチュラルワイン)」という言葉は世界中で広まり、パリ、ロンドン、ニューヨーク、コペンハーゲン、東京といった都市ではすっかり文化として根づきました。OIV(国際ブドウ・ワイン機構)の2023年の統計によれば、
世界的な自然派ワイン生産量はここ10年で約2.4倍に拡大しています。スロヴェニアもその中心にいます。古代ローマ時代からのワイン文化を受け継ぎ、現在では国内生産量の約30〜35%が輸出されています(Slovenian Ministry of Agriculture 2024) その中でも輸出先トップ5は、イタリア・オーストリア・日本・北欧諸国・アメリカです。
そして、なんと日本はスロヴェニア産オレンジワインの輸入国として世界第3位にあたります。これは単なる市場データではなく、日本の食文化に根づく発酵・旨味・香りへの感受性が、スロヴェニアの自然派ワインと共鳴していることを示しています。
スロヴェニアの「真の自然派」
スロヴェニアでは化学肥料や培養酵母に頼らず、土地固有の菌を重視した醸造を続けてきました。ワイン批評家
ジャンシス・ロビンソンは、Decanter誌の特集でこう述べています。
「スロヴェニアの生産者たちは“流行”ではなく、何世代にもわたり受け継がれてきた“土地の記憶”をワインに映している」
Jancis Robinson 『 Decanter, The Amber Wine Renaissance 2020 』

その言葉の通り、彼らにとって自然派とは“スタイル”ではなく“態度”。ぶどうの力を信じ、人の手は最小限にとどめる。それがこの国に息づくワイン造りの根幹です。同様に、ワインジャーナリストのサイモン・J・ウルフも著書 『 Amber Revolution 2018 』で、
「スロヴェニアは“古代の知恵”と“現代の感性”を併せ持つ、真のオレンジワイン文化圏である」と評しています。
「美味しい」と「本物」
自然派ワインの思想を世に広めた造り手、
ニコラ・ジョリーはこう語ります。
「ワインは美味しいと言う前に、本物でなければならない。自然派は本物だけれど、本物が必ずしも美味しいとは限らない」
Nicolas Joly 『 Le Vin, du Ciel à la Terre 』
この言葉には、自然と技術のバランスへの深い洞察が込められています。ワインの世界では、
自然に任せることが目的ではなく、自然を理解し、そこから“美味しさ”を導き出す努力こそが本質です。今日のスロヴェニアでは、若い造り手たちが最新の微生物学的知識を取り入れつつも、伝統的な甕醸造(アンフォラ/クヴェヴリ)を再評価し、「テロワールの声を聞く」という原点に立ち返っています。それは、本物のワイン=人と自然の調和という思想の実践そのものです。
“本物”の定義を、今ふたたび
“ナチュラル”という言葉に甘んじることなく、真摯にぶどうと向き合い、技を磨き、自然を尊ぶ造り手。彼らが生み出すワインは、単なる飲み物ではなく、「土地・時間・人の記憶を継ぐ文化」です。世界の丘陵地で、毎年、同じ畑と向き合う造り手たち。彼らの静かな情熱が、グラスの中で琥珀色の輝きとなって息づいています。その一滴こそが、“本物のワイン”の姿なのです。
そして、こうした““本物のワイン”を語るときに欠かせないのが、オレンジワインの存在です。オレンジワインはしばしば自然派(ナチュラルワイン)の象徴とみなされますが、両者はイコールではありません。
オレンジはあくまで製法を指し、自然派は哲学を指します。「畑と発酵をできるだけ自然にまかせる」という考え方のもとで、このスタイルが多く選ばれてきた、その重なりこそが本質です。つまりオレンジワインとは、
自然派ワインの核心にある“人の手を引き算する”思想を、最も美しく体現したかたちと言えるでしょう。
最後に
起源や定義、醸しや色合いを越えたところに、オレンジワインの本質があります。それは、自然と向き合いながら生きる造り手たちの哲学そのものです。次はその背景にある思想や価値観を見ていきましょう。
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